日本語は難しい。
シーンに合わせて敬(うやま)ったり、謙(へりくだ)ったりしなくちゃならないし、伝えようとしていることが、語彙の選択次第で正しく伝わらないこともある。
とくにビジネス文書って、的確じゃないとダメなのよねー。
逆にいえば。
そのコツさえ掴んで正しく用いることができる人は、伝え上手。それが、仕事の出来具合いにも大きく影響するのだと、長年働いてきて痛感しています。
著者の山口拓朗さんは「話す」「書く」のご専門家。文章って結局、語彙の集合体。
語彙を、どこでどのように駆使するか。それぞれのシーンに合わせて詳しく解説してくれる、本書はまさに「ビジネス文書の取扱説明書」なのです。
いろいろなシーンがあるもんだ
ビジネスだけでなく、さまざまなコミュニケーションの場面。ビジネス文書はもっとも形式ばったものだと言えるので、そこを押さえておけば、日常のいろいろなことに応用もできます。
- あいさつをする
- お礼や喜び、または、お悔やみを伝える
- ほめる・祝福する
- 承諾する
- 依頼する
- 確認する・催促する
- 報告する
…etc.
第1章では、それぞれのシーンにあわせたさまざまな文例集が示されている。
意外にできているようでできていない表現も
多々。"リマインドテキスト”のように活用できてありがたい。
また、普段何気なく使っている語彙。
たとえば「万障お繰り合わせの上」の「万障」とは、"いろいろな不都合"という意味だと解説くださいます。確かに漢字をよーく見てみると"よろずのしょうがい"なのですね。
意味を知って使うことで、よりスンナリ語彙を発することができるようになれる。
コトバは生きているのだと、あらためて敬服。
言いにくいこともあるもんだ
第2章では、さらにコミュニケーションが複雑になりがちなシーン。
- 断る・辞退する
- お詫びする
- 反論する・意見する・指摘する
- 弁解・交渉する
こういうときって、とかく感情が高ぶりがち。
そこをぐっと堪えて冷静に対処する。語彙がその「懐刀」にもなってくれる。
そんなフレーズの粋を集めてくださっています。
とくに目上の方へ意見させていただくときなどは、冷や汗モノ。
「出過ぎたまねとは存じますが、ひとこと言わせてください」
こう切り出されたら「何?」って聴きたくなっちゃいますよね。
言いにくい物事を伝えるときに、こういう語彙がスマートに出てくるようになりたいな。
ああ勘違い
一方、尊敬語と謙譲語と丁寧語と・・・なにがなにやらわちゃわちゃになることもままある。
「おっしゃる」のか「申す」のか
「お伺い」なのか「お訊ね」なのか
「お食べになる」のか「召し上がる」のか
…ここはかなり難関でもあります。
第3章では、具体的な正誤表でこの‟難関”を突破できる文例がたくさん。
また、第4章とともに、ありがちな「二重敬語」「さ入れ言葉」「ら抜き言葉」「れ足す言葉」「紛らわしい語彙」「誤りやすい語彙」についても、やはり正誤表を用いてくわしく解説くださっています。
昨今はなにせ、パソコンがあらゆる字を変換してくれるから、何が正しいのか分からなくなります。
「ご静聴」と「ご清聴」
「苦渋」と「苦汁」
「超える」と「越える」
確かにどっちも出てきちゃう。
‥‥こうした細かな点も本書ではしっかり教えてもらえる。
”ああ勘違い”、ぜひとも無くしてゆこう。
語彙は正しく使えば美しい
あらゆる語彙の使い方。この本一冊あれば、正しく日本語を使うことができること間違いなし。
語彙は難しい。
でも、正しく使えば美しい。
感情に揺さぶられることなく、凛として美しく言葉を使える。それってつまり「相手にきちっと伝わる」ということ。
だからこそ、できる人なのだと。
あらためて本書を読んで納得です。
そんなビジネスパーソンをぜひとも目指したい!
終章では、ちょっとカッコいい表現や、四字熟語・ことわざ、カタカナ言葉などのさらに幅広い語彙もたくさん紹介されていて、この本を常に職場の傍らに置いておきたい。手放せない珠玉の一冊です。