家族のコミュニケーション、特に親と子の問題って難しいことが多いですよね。
私の息子は子どものときから聞き分けのいい子。働く母としてはとても助かっていました。
ところが成人してしばらくした頃、突然人生の深い闇に直面してしまったようで、色々な出来事が次々と襲ってきた。
私はうろたえるばかりでどうしていいのやら全く解りません。
そんなときに一冊の本に救ってもらいました。
精神科医/作家 樺沢紫苑さんの『父滅の刃』(前作『父親はどこへ消えたか』)です。
ご紹介します。
『父滅の刃』に書かれてあること、生きづらさへのヒント
今回ご紹介する、樺沢さんの2020年8月新刊『父滅の刃(ふめつのやいば)』には前作があり、『父親はどこへ消えたか』というタイトルで2012年11月に刊行されていたもの。
私が子どもとのことで悩んでいたのが2016年頃でしたので、この前作に助けてもらったのです。
本の発しているメッセージを一言で簡単に言うならば
「もしあなたが生きづらさを感じているのならば、ご自身のお父さんとの問題がそのきっかけになっているかもしれない。映画で描かれている『父と子の関係』がきっと参考になる」
映画評論家でもある樺沢さんが、100本以上にも及ぶ古今東西の映画を通じて描かれている「父性」「父と子の関係」を解説しながら、そのヒントを伝えてくれています。
その後8年間(2012年〜2020年)に公開された作品、例えば「アナと雪の女王」「万引き家族」「天気の子」など、また、映画だけでなくアニメ「鬼滅の刃」といった最新作も交えて加筆・リニューアルされたものが本書、『父滅の刃』。
ちなみにタイトルも「鬼滅の刃」に似ていますが、本書で取り上げた重要作品の一つであるこのアニメに着想を得て、"父性消滅に抗する刃"という思いを込めて命名されたとのことです。
この本を読んで、私はどう救われたのか
では、この本を読んで、私はどう救われたのか?についてをお伝えします。
母親としての私は「父性」を息子に与える役割…というよりも、夫の傍でそれを見守る役割ともいえます。
悩みを抱えて壁にぶち当たってしまっている息子の様子を見て、本を読む前に「何が書かれてあるのか」を目にしたとき、「息子が読んでくれるといいのになぁ」次に、父親である夫にも「読んでもらえるといいのになぁ」と思ったものです。
しかし、家族であっても自分以外の行動は変えられない。ましてや大人だったら、人から言われて渋々読む本なんて身につきやしません。
息子は何に悩んでいるのだろう。父と子の関係ってなんなのだろう。それを知りたいと思いました。
映画って所詮作り話の世界だから…と考えてしまいがちですが、本書の「はじめに」で書かれてあったことが刺さりました。
2012年公開の映画を見ていて、ふと思いました。「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」「アメイジング・スパイダーマン」(中略)「虹色ほたる〜永遠の夏休み〜」。なんだか非常に似たパターンの映画が多いなと。
(中略)一言で言えば、全て「父親探し」の映画です。(中略)映画製作者たちは、時代性にマッチした作品を作り上げるわけですから「父親探し」「父性回復」のテーマが、今の時代には受け入れられやすいと考えたということです。
ー『父滅の刃』はじめに、より引用
そうか。映画とは作り話、というよりも、その時代を反映した普遍のテーマを取り扱う表現媒体なのですよね。
本で一つ一つの作品の解説と、そこに繰り広げられている父性の世界を読み、また、時間を見つけてはDVDを借りてきて実際に視聴してみて気づいたこと。
みんな、親子関係に悩んでいるのだなぁ。
だったら、私は必死になって息子の問題解決に手を差し伸べようとしなくても、「息子は今、壁にぶつかっている」という事実にただただ寄り添えばいいのだ。
夫だって悩んでいるに違いありません。だから、「夫も今、悩んでいる」と受け止めるだけでよいのだ。
とにかく見守ること。そうやって過ごしていたら、不思議なことに、いつの間にか息子の問題は解決していきました。
彼の悩みが父子問題にあったのかどうかは解りません。別のところにあったのかもしれません。
ただ、私自身この本を読んでからは、心穏やかに過ごせるようになったことが救いだったのです。
「父性」「父親殺し」とは?
次に、この本で語られている大きなテーマ「父性」「父親殺し」についてもお伝えします。
「父性」とは、子育てにおいて父親に期待される役割。子供を社会化していくように作動する能力と機能。父性は子供に我慢や規範を与え責任主体として理想を示す。一方、母性は子供の欲求を受け止め満たし包み込む役割。
「父親殺し」とは、父親を精神的に倒して(実際に倒すことではない)乗り越え、自己成長して自ら父性を獲得することによって、大人として社会参画をしていけること。
ところが、現代においては、いわゆる「頑固オヤジ」的な1950年代ころの当たり前の父性の時代から、父性の敗北→父性探し→2010年代は父性喪失の時代へと推移していて、2020年代もますますその傾向が高まっているとも言えます。
そして子どもたちも悩みの世界に入り込んだまま、なかなか抜け出せなくなっている。
文中で解説されている各作品にも、それぞれの時代の父性の変化が投影されている様子が見て取れるのも、興味深いものです。
最後にひとこと
親子問題で悩みを持っている方へ。父親でも母親でも、また子どもの立場であっても。
映画の世界からヒントをもらえる。こんな本は世界中どこを探したって他にありません。
トータルで400ページ強に及ぶ大作で、古い作品から新しい作品へと時系列で書かれてあるものの、まずは自分が気になる作品の項から読み始めてもよいですし、その後、実際に映画を視聴してみるとより理解を深めることができます。
何よりも。
みんな、悩んでいるのだ。それを知るだけでも、かつての私のように救いを得られることもあるかもしれません。
よろしければぜひ手にとってみて下さい。
動画でもご紹介
この感想文をコンパクトにして、動画にもまとめました。合わせてご覧ください。